「日本」の終わり 竹内靖雄 日本経済新聞社
「目からウロコ」の日本診断との宣伝文句があり、確かに日本型社会主義の分析を行い、そこからの脱却を説くという内容は、暴論とも言ってもよい部分を多く含み、それだけ痛快だから読後感はそんなに悪くない。しかも、著者の知識の豊富さは驚くほどで、種々の古典の引用やら、比喩においても文学的才能ともあいまって感心させられる部分が多い。只、一方では床屋政談と言ったおもむきを感じなくもない。即ち、あらためて、福祉というものは、弱者救済というが、貧乏人の利己主義の発露であり、国すなわち税金を払う金持ちから貧乏人が福祉の名のもとに金をふんだくると言うものでしかない等と言う主張は、正論であり正しいとは思うが、「そんなことは分かっている。ただこんな馬鹿馬鹿しい制度でも止める訳には行かないところまで来ているのに。今更床屋の親爺みたいな話をして何になるのか」と思わないではない。漫才で天下国家の事をああだこうだと言っている程度のレベルに、これだけ知識豊富な著者がとどまってしまっているのではないかと言う気がしないではない。勿論、現実の政治家自身に政策がないし、国会でもよってたかって床屋政談レベルだし、自分自身もこのレベルだから、この著者の主張は概ね賛同出来る。日本の社会は実は、マルクスの説き、あのソ連も実現することの出来なかった社会主義を実現した社会だったのだ。だから駄目なのだと言う主張は、「目からウロコ」と迄はいかないがそうだそうだと頷ける。政治や社会の悪口雑言を言って胸のすく思いがしたい向きにはお勧めの書である。