英国診断 北村汎 中公文庫
駐英大使と言えば日本の外交官の位としては、最高位を極めたと言っても良い地位であろう。著者は湾岸戦争勃発の９１年から９４年迄駐英大使を務めたが、その際に大使として英国で経験したこと、或いは英国に関する造詣を披露したのが本書である。湾岸戦争時の外交交渉は熾烈なものであった事は、想像に難くないが、その際に日本の駐英大使がどの程度の重責を担い、又日本の外交において、どの程度の活躍、貢献をしたのかは本書の語るところではないようで、それどころか、大使というのは日頃役に立つ仕事をしているのかも触れられていない。要は、英国好きの元大使の英国に関する蘊蓄であり、著者のワインに対する造詣のふかさであり、女王を始とする英国王室、或いはお城を持つ貴族との著者の付き合いについての話だ。如何に多くの書物を読んでも、この著者が経験したような、英国社交界との付き合いやら、連夜のパーティーの経験は求められるものではないだろうから、その面ではなるほど、外交官の社交とはこういう世界なのだかと珍しいものを知ることが出来よう。只、やはり、読み終わると一体全体、外交官とか大使と言うのは、毎日毎日こんな事を国民の税金を使ってやっていて、本当に必要なのかなと言う単純な疑問をもってしまう。ウイーン会議の頃の華やかな外交の世界が未だ、古代の遺物の様に続いているようだ。政情が不安になると邦人保護をそっちのけで、一番最初に逃げるのが大使館だと言う話を以前聞いたこともあるが、そう言う意味では日本の外交システムもリストラが必要なのでは。もっとも、折角洒脱な文章を書いた著者にしてみれば、こんないわれのない批判は思いもよらないことではあろうと思うし、日本の外交制度が古くて機能していないのは何も著者ばかりの責任ではないと思うが。