二つのコリア ドン・オーバードーファー 共同通信社
戦略的外交を行う事、又その戦略的外交についての分析、調査を行う機関と陣容の実に多い事は、特にアメリカの場合桁違いであり、ままごと遊びの域を出ない日本の外交からみれば、官民ともに正に天と地の差があると言える。日本にとっての隣国であり、これほど地政学的にも重要な二つのコリアについて、本書程の分析を行った日本の著作には全くお目にかかった事がない。著者はジャーナリストでありコリアとの関わりは冒頭に述べられている通り、朝鮮戦争の当時からの物である。その時期に始まり、昨年末迄の韓国、及び北朝鮮での両国の政治、経済情勢の移り変わり、又国際社会に於けるこの二つのコリアの関わり合い方等、正に約４０年間に亘る南北朝鮮問題を分析して実に読み応えがある。特に本書はジャーナリストとして、著者が現場で見聞きして来た事、会って話しを聞いた人々とのインタビューの結果などから、歴史の現場でその歴史を動かして来た人々の生の声が聞こえてくると言う意味では、一つの大河小説にも似たものであり一気に読んでしまう。金正日の個人的な狂気が、北朝鮮という一国を集団自殺へ追い込んでしまうのか。その前に起きるかもしれない体制崩壊は、大量難民流失へつながるのか、或いは、自暴自棄の南進と言う事にもつながってしまうのか、韓国のみではない正に我々日本の生命線がこの朝鮮問題にかかっているのだと言う現実を、あらためて思い知らされる。その朝鮮問題の行方を知る為には、本書に書かれている様な二つのコリアの歴史を、十分日本の外交、政府、民間が知る必要があるのだと思う。（９８年３月発行）