読んだふり　　　　　河谷史夫　　　　洋泉社　　　　　　　　　　　　　　

筆者は朝日新聞の記者出身で現在は論説委員として週に一冊程度の書評を紙上に発表している。この約4年あまりに発表された書評の中から１１１本を再録したのが本書である。従って、この我が書評も「書評の本」の書評というややこしいことになる訳だ。現在日本では年間になんと６万冊もの本が出版されるという。朝日新聞が毎週６冊分の書評を掲載しているそうだがそれでも0.5%にしかあたらないし、この著者はまたその１／６という訳なので、いかな自分もそれなりに本は読んでいるつもりだが、１１１冊の中で自分が読んだことがあるのはたった５冊に過ぎなかった。その５冊も含めて、確かにこの著者の書評を読むと「読んだふり」をして、他人には分かったようなことを言えるかもしれないと思った。多少、他人の日記をのぞいたような、あるいは、個人の秘密を知ってしまったような気分を感じるのは、書評というものが、本の紹介であるようで、実は書評子の個性を読むことと同じだからだろう。この著者の書評には、肩肘をはったり、気張ったところがない。淡々と自分のあるがままの興味で、本を選択し、それに自由に論評を加えているところが良い。読まれることを意識して、名文に凝ろうとか、自分の知識の程を披瀝しようという嫌みがない。タイトル通り「読んだふり」をしたい人もそうでない人も一読されることを勧める。敢えて不満を言えば、当然のことながら全ての本は褒められており、著者の悪口雑言を浴びるよな本はどういう本なのかを知ることが出来ないことだ。尚、未だ読んだことのない大部分の本の内、この書評を見て読んで見たいと思った本が５冊あった。

（９８年２月　発行）