孫子の兵法の数学モデル 木下栄蔵 ブルーバックス
ＡＨＰ（階層分析法）という数学的な意志決定法がある。孫子の兵法の極意であるところの「己を知る」こと即ち、どの様な意志決定を行うかを、このＡＨＰの方法に重ねて、化学的に解説したのが本書である。著者によれば、意志決定には「決まる」と「決める」と「定める」の三つのパターンがあり、それぞれの文化的背景や民族性、宗教によって微妙に異なっていると言う。ユダヤ教の考えでは「全員一致」の決定は無効という考えがあるが、日本は多少の反対があった場合でも名目的には「全員一致」の形を取りたがるのは何故か、等の文化論に遡っての話からのＡＨＰへの導入部分などは、比較文化論としても興味深い。但し、数学的手法であるＡＨＰは、意志決定の前にあらゆる条件を数値化すると言う手順が必要だが、例えば外交手段の選択肢を数値化するという事自身が、中々難しいのではないかとも思われるので、現実に適用可能かとなると疑問も残るが、考え方の基本即ち論理法としてのＡＨＰの採用は、現在あまりにも行き当たりばったりの日本の外交政策立案にとっては有用かもしれない。表題の孫子の兵法との直接的な関連づけは薄く、その分は不満が残る。例えば、一つ一つの孫子の兵法を数学的に解明する等の次作を期待したい。（９８年３月発行）