環境ホルモン入門　　　　　立花隆　　　　　新潮社　　　　　　　　　　　

立花隆の真骨頂というのは、実に膨大な資料を読み込み、その資料のエッセンスの中から実にきらりと光る真実を引き出して、既存の権威に挑戦していくと言う手法だろう。それは田中角栄研究であり、農協問題であり、日本共産党問題であった。視座が、その資料の読み込みによりしっかりとしているから、実に強力であった。しかし、それも昔のことで、最近の立花隆がかつての輝きを失ってしまったのは、反戦フォークで売り出した歌手が、歳を取り、豪華な家に住むようになると、単に向かしの反戦フォークを歌として、ナツメロ番組で歌っているのと同じなのだろうか。本書は、シーア・コルボノのセンセーショナルな環境ホルモン問題を取り上げた、「奪われし未来」の追認を、立花隆流の膨大な資料の提示により行おうとしたものだが、若いころの彼の著作と違い、環境ホルモンは、人類の生殖異常の原因になっている、政府なり産業界はそれを知りながら、国民にそれを偽りごまかしている、皆もっと怒るべきだと、最初から結論付けて言っているだけで、言って見れば、デマゴーグの類のものだ。彼は、自分はこれだけの資料に当たり、これだけ調べた結果、環境ホルモンは生殖異常に関係ありと結論付けたと言っているが、資料の読み方は彼の思いこみを裏付ける様にのみ解釈され、反論は「レベルの低い文章」だとか、国立の研究機関の研究員の反論には「大蔵省の役人をみよ、役人は皆嘘を言っている」の類のとんでもないいいがかりをつけているのみだ。評者は環境ホルモンが生殖異常に関係がないと言っているのではない、未だこれだけ解明されていないものを、この程度の資料で一方的に決めつけてしまう、立花隆の論法に、彼もそろそろ引退したらどうかなと思うので一言述べてみたのである。

（１９９８年８月発行）