大臣　　　　　　菅　直人　　　　　岩波新書　　　　　　　　

今をときめく最大野党民主党の党首の著作だ。薬害エイズ問題では厚生大臣として厚生省が長年秘匿していた、エイズ研究班資料を公表したという、今までの大臣にはない大臣であった同氏が、議院内閣制における内閣とは現状どのようなものなのかを語る形になっている。日本は議院内閣制をとっているが、同じ制度をとっているイギリスとは、実は全く異なった制度になっていることを指摘する。日本は官僚内閣制度であるという著者の主張は、総理大臣が大臣を任命すると言っても、それは実は派閥順送り人事であり、実際の大臣の過去の経験やら専門分野とは、殆ど関係ないこと、しかも大臣の任期が平均１年弱であり、その期間に行政の長としての指導力を発揮する事などは、無理である事などが指摘されている。有名な話しではあるが、閣議と言うのは、実は前日に行われる各省の事務次官による会議で、全員一致で決定された事項を追認する、サイン会でしかないこと、従って、事務次官の一人でも反対する様な事項は閣議には上がってこないこと等で、如何に、日本の内閣が政治的には機能せず、官僚主導になっているかという事などが、延々と指摘されている。そもそも、政権交代が総選挙を経ずに行われる事が普通である、現在の日本の政治の仕組みでは大臣の任期を長くしようが、副大臣を置こうが官僚の行政支配を打破する事は出来ないのではないだろうか。反自民の勝利した総選挙の結果を無視した社会党が自民党とくっつき村山政権を発足、その村山首相が自分の都合で政権を放棄するにあたって、「禅定」という形で橋本首相に政権をゆずるという民主主義からはおかしな事が起きた。その橋本政権で大臣に指名されて制度に組み込まれまあ十分それをエンジョイしたはずのご本人が、自分が大臣になった事の矛盾には、意外や寛容で、この手の評論本を書くという事に大分疑問はある。そもそも権力志向的な「大臣」等という題名にすることにこの党首殿のセンスの悪さと、実は権力志向を感じないではない。

（９８年５月　発行）