早い者が勝つ経済 竹中平蔵 ＰＨＰ
アジア太平洋の各国の経済成長は奇跡とも言えるめざましいものがある。それは経済成長の先駆的役割を果たしたアジアンタイガー諸国から、最近の注目度ナンバーワンのベトナムまでどのような根本的な条件が整ったから起き得たのだろうか。著者は第一にビッグ・イート・スモール（大が小を制する）というかつての経済のパラダイムがファースト・イート・スロウ（早い者が勝つ）の原則に変わったこと、第二に軍事費の削減、通信情報革命、グローバリセーションなどのポジティブ・サプライ・ショックという二大潮流がその主要因であると言う。昨年タイを端緒に起きた経済不安定の状況でアジア太平洋経済のグローバリゼイションが一頓挫しているが、日本の果たす役割は大きく、日本はアジア太平洋諸国の戦略的多国間外交を媒介して行かなければならないと言う。主題はこのテーマで進むが、中国とベトナムという社会主義国に於ける市場経済の発展という、ある意味での究極の矛盾についての著者の関心を述べる章等もあり、本書の統一的論点が何であったのか、今一つ統制がとれていない。二つ三つのテーマをかき集めて、今売れっ子の経済学者が急いで一冊ものにしたという印象は拭えない。もう少し統一的テーマで大きく俯瞰した著者の意見を聞いてみたいというフラストレーションは溜まるが個々のテーマは説得力があるのはやはり、理論家の評判の高い著者だけのものはある。（９８年４月 発行）