選択という幻想　　　　アンドリュー・バード・シュムークラー　　　　　青土社　

確かに市場経済万能論ばやりであり行き過ぎがある事をあげつらう論議も多くなって来ており、その主張は勿論正しい。しかし、これはある一点をあげつらっている式の議論も多く、又、その市場万能論批判が、何処にその帰結を持って行こうとしているのか見えないのも、論議のための論議だと唾棄すべき要素なのだが、本書はその意味では、多少物足りなさはある物の、指摘は正しく、又、著者自身がその批判の帰結を何処に持って行くべきかの、正直な迷い、悩みが赤裸々に書かれており、内橋克人流の無茶苦茶な復古主義、何でも現状維持の暴論に比べれば大いに好感が持てる。選択の自由が万能ではない事は十分皆も理解していよう。しかし、限られた選択肢しかないにも係わらずその中での選択の自由のある社会と、がんじがらめに規制されていたり、その逆に選択も規制もない程に原始的な社会とどちらがましかと言えば、やはり限られてはいても選択出来る世の中の方が良いだろう。行き過ぎは何事も行けないが、行き過ぎがちだからと言ってその原理原則を否定する論法（内橋流）は与すべき物ではない。

（９７年９月発行）