アジア経済の構図を読む 渡辺利夫 NHK
アジア経済と一言で言った場合には、著者の言うところの東アジア海域世界に住む中国人「海の中国」の大きな存在を抜きには語れないだろう。著者は「陸の中国」即ち、共産中国自身に対しても、海の中国からのベクトルが働くことで、そのエネルギーを得ているという。そのベクトルの中継点が香港であり、香港の経済の繁栄は、中国社会全体、ひいてはアジア経済全体に不可欠であるという結論である。本書は昨年のアジア通貨危機の直後にまとめられたが、元々はＮＨＫ番組「人間大学」のテキストとしてまとめられたものであり、その意味では平易で読みやすい。又、テキストらしく、いわゆる華僑と言われる人々の歴史、民族的背景から、台湾、韓国の政治、経済的歴史と網羅されている範囲は実に広く、ハンディーである。しかし、難を言えば、現時点では既に香港経済の先行きが、元切り下げの可能性とも相まってかなり憂慮される状況になっていることもあって、タイムリーとは言い難くなってきてしまっている点であろう。（９８年４月発行）