悪の民主主義　　　　　小室直樹　　　　　青春出版社　　　　　　　　　　　

小室直樹の知識の幅の広さは彼の常に過激な極論になってしまう論調でマイナス点があったとしても、感服させられる。民主主義が無謬の制度ではない事、それどころか実に多くの矛盾を孕んだ制度である事は、とみに近年、社会的な諸矛盾に遭遇する度に、感じられるところであるが、本書はそもそも民主主義と言う観念が、どういう社会的背景、歴史から生まれて来た物であるのか、或いは議会制度と民主主義は全く出自の違う物であること、アメリカの独立宣言には民主主義と言う言葉は使われていないが、何故なのか、又その背景は如何なっているかについての、小室直樹の蘊蓄が詰まっている。現代日本が民主主義と言っている、現制度が民主主義の本質とは全く違った物であること、日本の民主主義は一般にアメリカ型民主主義と思われているが、その対極にある物であること等の指摘は、胸のすくものである。但し、民主主義の問題点をえぐり出し、その歴史を開陳し分析するには鋭い物の、さあそれではどうしたらいいのかとなると、流石の小室直樹の舌鋒もとんと聞こえてこないのは残念ではあるが。

（９７年１１月発行）