円と元から見るアジア通貨危機　　関志雄　　　岩波書店　　　　　　　　

近年のアジア諸国の経済の急成長と、昨年７月のタイに始まる通貨危機はともに、各国の通貨がﾄﾞﾙにペグしていた為に起きている。即ちﾄﾞﾙ安になれば、その影響で日本への輸出力は増すし、又日本からは資本流入が起きるからアジア諸国の経済成長は加速されるだろう。しかし、円安になればどうだろうか。勿論その逆に動くから、対日輸出力は低下し、日本からの資本流入もとまるだろう。この結果起きたのが昨年のアジア通貨危機である。著者は、このような仕組みを分析し、アジアはﾄﾞﾙペグ制ではなく、少なくとも円ポーションの高い、通貨バスケットを採用していたならば、通貨危機は回避されたか、よりマイルドな形で終わったのではないかと指摘する。アジアのGDPの６割以上をも占める円の比重をアジア各国が高め、為替に於ける円との補完性を高めることの必要性を説く。又、アメリカにより過大な「褒め殺し」にあっている、中国経済の未熟性についても分析しているが、この分析も明快である。一人当たりのGDPでは日本の1/50でしかない中国という視点が、アメリカを始めとする日本パッシング、中国賞賛論には抜けていることは、実に不思議な現象である。

（９8年８月発行）