FRBの政治学　　デビット.M.ジョーンズ　　日本経済新聞社　　

現在の日本が遭遇している経済危機とかなり相似した危機を米国は８０年代の後半に経験している。本書はその危機を一応脱しつつあった９１年当時に、連邦準備銀行(FRB)の仕組み、役割、或いはその実績について表されたものである。偶然に遭遇してこの書を読んでみて非常に驚いたのは、当時のFRBが米国の金融危機に如何に対処したかを中心に書かれた本であるにもかかわらず、殆どそのまま、米国を現在の日本と置き換えて読んでも良い程の相似があることだ。８０年代のコンチネンタルイリノイ、リパブリック等の銀行破綻と、それに相前後する金利の低落場面での貸し渋り、資産デフレ、雇用不安による人々の消費行動の収縮等々は、まさに今の日本の姿ではないだろうか。さて、その様な状況の中で、金融の番人たるFRBがどの様に事態に対処し、失敗し、あるいは成果をおさめていったのかの叙述も、そのまま日本の金融当局者に演繹出来るのではないかとさえ思った。FEDウォッチャーである著者が、歴代のFOMC議長の人物、業績評価を含めて、その金融政策を詳細に述べており、アメリカの金融政策の現状と歴史を知る意味でも有意義である。連銀議長の素質として著者が掲げる条件が示唆的である。曰く「業務に関するテクニカルな知識は言うまでもなく、生得の資質である金融政策を実行する適切なタイミングをわきまえていること」だそうだ。日銀総裁、或いは大蔵大臣、総理大臣の中に、歴代この条件を満たした者がいただろうか、或いはいるのだろうか。もしいないとすると、日本が米国の様に金融危機から脱する可能性について、いささか不安な気持ちになってしまう。

（９１年９月　発行）