日本人のための経済原論　　　小室直樹　　　東洋経済新報社　　　　　　

田中角栄の賛美者として有名な著者は、また博識でも通っているが、田中角栄賛美にせよこの超博識にせよ、世間では異端と思われるのは、やはり、奇人変人の類の天才性があるからだろうか。本書もその様な著者の「変わり者」的博識が溢れている。前書きに「一気に経済学が分かりたいという人」のために書かれたとあるが、その前書きに先ず度肝を抜かれる思いがする。しかし、内容はこけおどしではない、アダムスミスから始まった経済学、がマルクス、ケインズを経てどの様に科学として成果を得て来たのか、サプライサイド経済学によるレイガノミックスに至る過程とその功罪、或いは日本の戦後経済の成功と挫折の原因を、著者の博識をいかんなく発揮して切りまくる。それぞれの取り上げられた事柄に対する著者の解説は、分かり易く経済原論という名で、構えて読む必要もない。ただ、取り上げられる事象、対象があまりに広義にわたりすぎ、全体として起承転結がはっきりしない面はある。現在の日本の経済不況の原因を、日本が元々、資本主義を理解していないこと、すなわち、封建制と、社会主義、官僚制と行ったものをミックスさせた、「鵺経済」の上に成り立っているからだという主張等は、極めて説得力がある。

（９8年11月発行）