日本の危機　　　　　　櫻井よしこ　　　　　　新潮社　　　　　　　　　

数少ない自分の意見を持ったテレビのニュースキャスターであった著者だが、フリージャーナリストとして活躍中の現在でも、その社会を見る視点はしっかりとしている。官僚行政の腐敗の極ともいえるエイズ問題において、その元凶たる厚生省を始めとする権威を追求する姿勢には些かも揺るぎがなかった。又、最近では「従軍慰安婦」問題では、「進歩的文化人」といわれる人々の喧伝して止まない自虐的捏造歴史観に対して、その批判の先端に立っており、彼女の言論に賛同する側にも、又、反論する側にとっても、実に骨太で応じ甲斐のある言論人と言うことが出来よう。本書は本年「週刊新潮」紙上で著者が取り上げた、「日本が背負う２１の十字架」と言われる社会矛盾についての論評に、大幅加筆訂正したものである。「誰も止められない国民医療費の巨大化」「族議員に壟断された郵政民営化の壊滅」「朝日新聞人権報道に疑義あり」「農協は農民の見方か敵か」等々、刺激的なタイトルが続く。それぞれのテーマは正に現代日本が抱えた、社会的、制度的矛盾と腐敗である。しかも、それらの既存の制度を守ろうとする官僚や、メディア等の権威の醜悪さを、鋭い舌鋒でついて行くところは、誠に小気味よい。

（９８年８月発行）