YENは日本人を幸せにするか　　吉川元忠　　　　　　ＮＨＫ出版　　　

昨年１２月発行の「マネー敗戦」は本書評においても取り上げたが、なかなかセンセーショナルな内容であった。その「マネー敗戦」の著者が昨年に発行した本書を、期待をもって読んで見た。結論から言うと「マネー敗戦」が本書の要約であることが良く分かる。著者の主張の大筋は一年で殆ど変わっていない。斜陽と言われた大英帝国が実際にその多くの版図を失った後も数十年にわたりその偉容を保つことが出来たのは何故か。それは長年に渡って行った海外投資からあがる投資収益が英国が斜陽になって後も長く英国へ環流し続けたからだ。このようなマネーの環流のことを「帝国循環」と言っているが、過去の大英帝国同様に、現在の米国経済は、その実際の経済力以上の巨大なマネーの流入がある。正に米国にも帝国循環があるのだ。この米国への帝国循環を可能にしたのが、日本のドルによる資産運用と米国債の購入であるとの指摘が、著者の根本の主張だ。この理論は全く正しい。それであれば、今後、これらの米国への資金供給の阻害要因は何であるかを分析すれば、これからの米国の経済とひいては世界の経済がどうなるかは、かなりの確度で言い当てることが出来るだろう。又、日本はどうすべきかもはっきりして来るだろう。この様な主旨で本書はまとめられており、論旨も主張も明快である。日本はドルのくびきから離れ、少なくとも現在よりは、自国の経済を他国通貨当局の政策によって左右されない程度の自由度を持つことが必要であろう。

（発行９７年１２月）