国家の退場　　　　　スーザン・ストレンジ　　　岩波書店　　　　　　　　

世界経済のグローバル化とともに国家の権威が衰退している。その衰退と平行して、安全保障、金融、生産、情報という４種類の権威が国家の枠を超えて力を持ち始めている。何故、国家が権威を失いつつあるのか、新しい権威の実態はどのようなものであるのかを、豊富な文献をもとに分析したのが本書である。そもそも国家が権威を持ったのはせいぜい前世紀と今世紀に過ぎないから、人類の長い歴史からみれば、国家という権威形態自身が例外的なことと言える。寧ろ国家以外の多様な権威の出現こそが人類社会の歴史からみれば、正常なものなのだ。これは中世における教会の権威などを思い起こせば極めて納得の行く話だ。その意味では、市場経済の発達にともない「グローバル化」自身が権威を持ち始めていることも、別に目新しいことではないし、異質な権威の出現という類のものでもないと著者は主張している。又、そうやって生まれる新しい権威も又、いつか力を失うだろうから、現在のように市場経済万能、グローバル化が全てといった考えも又、正しくないということなのだろう。著者は昨年７６才で他界したとのことだが、本書が著されたのは著者が７４才という高齢であった時だが、実に詳細に文献にあたり、緻密にかつ精力的に権力というものの実態を分析していることに感心させられる。書き飛ばしの論文ではない証拠に、巻末に詳細な索引がついているのも、本書の学術性の証左である。

（発行９８年１1月）