知的未来学入門　　　　浜田和幸　　　　　新潮選書　　　　　　　　　　　

未来を語る等というと何となくインチキ臭い、荒唐無稽なSF小説の世界とか、あるいは新興宗教の教祖さまのご宣託の類を思い浮かべるというのが、日本人の一般感覚ではないだろうか。要するに未来というものの捉えかたには、その文明の根本の思想が集約されているのかもしれない。輪廻の思想に基づく仏教文明ならばいずれにせよ、今日は明日につながり、明日のずっと先は過去につながるのだから未来学というものはさほど重要ではないだろう。しかし、著者は言う、今日の次が明日であり、それがどんどん先に行くのが未来ではないと。この考えに基づけば、常に今日においてどういう未来があるかを考えることによって未来は異なったものになるということも出来よう。未来学はそのような観点から社会や経済の将来を考えて行くという学問である。例えば、あり得ないと思われたソ連邦の崩壊とか、東西ドイツの統一という事態を早くに予知しておれば、いざその事態が起こったとしても、世界政治の危機は回避することも出来るだろう。しかし、逆に全くそんな事態を予期出来ず、今日の続きが明日だという無防備な状態でいたとしたら、世界はソ連邦の崩壊のようなカタストロフィックな状況では、どれ程の混沌に陥るだろうか。比べてみれば未来学の重要性が理解出来よう。企業経営などにもこの未来学は特にアメリカいおいて、取り入れられ重要視されているという。現在日本においても、社会全体もあるいは個々の企業が構造改革を迫られているがどうやって行けば良いのか試行錯誤の状況である。しかし、構造改革は的確な未来像をつかむことさえ出来れば簡単だとも言えるだろう。未来像、即ち未来学的見地からの結論が定まれば、改革案の策定は八分通り出来たとも言える。今こそ日本で未来学をもっともっと取り入れるべきなのかも知れない。著者は米議会調査局に籍をおき、未来学の過去、現在、未来に精通しているだけに、未来学を考える哲学から始まり、未来学の手法の詳細に至るまで、記述は詳細であり、日本のシンクタンク、或いは調査情報に携わるものにとっては参考になる一書となっている。

（発行94年8月）