大分裂の時代山崎正和中央公論社

著者は劇作家であり、また文明評論家である。その彼が96年の春から98年まで２年間わたって朝日新聞の「論壇時評」を担当したが、本書はその内容をまとめたものだ。そもそも言論に対する評論というものは、著者もあとがきで述べている通り、純粋な評論というものはあり得ず、評者自身が自ら論争に加わることであり、みずからの立場を表明する責任を負うことであるとするならば、この「疾風怒濤」の変化に見舞われた二年間の論壇評論として、著者が十分に、「論争に加わったか」となると物足りなさを感じないではない。数々の言論の解説と紹介に終わってしまいがちなのは、やはり、定期的に新聞に連載し、その時々の新しい言論を次々に、何しろ読んでいかなければならないという使命の下では致し方ないことかもしれない。表題にあるとおりインターネットによる情報の広域化とか、社会、経済のグローバル化とはうらはらに、まさに世界は個の乱立による分裂に向かっているのではないかという疑問提起は正しいと思う。その意味では、この問題提起を深めて、著者がもっと｢自ら論争に加わって｣おればと惜しまれる。

（発行９８年９月）