尾崎放哉（句集、随筆、書簡、全三冊）尾崎放哉春陽堂

尾崎放哉は明治18年生まれ。一高・東大を経て会社の要職に就くが、３９歳のときに、妻を含む全ての世俗を捨て、寺を転々とする句作生活に入った。大正14年に小豆島の南郷庵に安住の地を得たが、翌15年に42歳で病没する。世俗を捨てて以降の、孤独無言、虚飾排除の句作の中には、自由律俳句の珠玉の作が多い。ただ一人、廃寺とも見まごう庵に起居する生活を求めた彼の俳句には、実にその破滅型とも見える人生哲学が集約されていて、没後既に70年を経ているにもかかわらず、人々の心を打つ。同じく、自由律の俳句と放浪の生活を送った種田山頭火とともに、自由律俳句はこの時代に生まれ、この二人によってたちまちに頂点に達し、以後それを超える者がないとさえ言えるかもしれない。

一茶、芭蕉などの俳人と同じく、句作というものが人の心を打つ為には、その作者の人生そのものが、句作の為のものである必要があるのだろうかとも考えさせられる。

最も有名な句は、南郷庵で病んでいたときに詠った

「咳をしても一人」

であろうか。

更には、

「海が少し見える小さな窓一つもつ」

「足のうら洗えば白くなる」

「墓のうらに廻る」

「こんなによい月を一人で見て寝る」

「入れものが無い両手で受ける」

「春の山のうしろから烟が出だした」

など、晩年のほんの数ヵ月間に詠まれた句は、放哉の人生そのものが句になっているもので、実に味わい深い。

（発行９１年２月）