グローバル経済を動かす愚かな人々　ポール・クルーグマン　早川書房　

現在、米国の経済学者として最も著名な一人であるクルーグマンの最新書であるが、彼の他の著作と同じく、種々の雑誌などに発表した論文を、本人がまとめなおしたものである。クルーグマンが有名なのは、先ず、経済の問題をしかめっつらしい難しい専門用語や、数式で説明し、読者を煙にまくような一般の経済学者とは異なり、常に、極めて単純化した例え話などで、一般に分かり易い著述をするところにあるだろう。あまりにも単純化した解説ゆえに、他の経済学者からは内容がないと非難されがちであるが、一般読者の受けは良いようだ。又、９７年のアジア経済危機をそれ以前から予測していたことなどの実績もあり、一時クリントン政権に参加を要請された経緯なども、著者の人気の秘密であろう。サプライサイドエコノミスト、市場至上主義者、等々の著名な経済学者の理論に対する名指しでの痛烈な批判は、これまた、経済学にコンプレックスを持つ人々にとって「経済学者というのは、何と愚かな連中なのか」という優越感にひたらせるのに十分な効果もある。

本書においても、マハティールや、ソロスに対する批判なども実に面白い。又、本書にも述べられているが、日本に対する調整インフレの勧めなどについては、異論も多いものの話題騒然とさせたものであり、異端の経済学者として興味深い。読みやすいだけに、経済学の基礎的な理論や、最近のグローバル経済をおさらいしてみるのに便利だということが出来よう。それにしても、経済学者というのは、クルーグマンにかかると、本当になんと愚かな人々だろうかと思えてくるから不思議だ。

（発行９９年１月）