日本の失敗松本健一東洋経済新報社

先の大戦における日本の失敗は、戦争に負けたことではない。情勢判断の間違いと、希望的観測を実証のないままに事実と思い込んでしまう等々の誤謬の積み重ねによって大戦に突入してしまったこと自身が「大いなる失敗」であったと言えよう。著者は対支２１ヶ条要求にその日本の失敗の淵源があるという。対支21ヶ条が「侵略」の精神に基づくものであることは、当時、欧米諸国のみならず、石橋湛山等の言論人が指摘していたのだが、何故、これが「やむにやまれぬ」日本の正義の論理に変身してしまったのか、文献に基づく著者の分析は詳細である。又、軍部独走を許し、日本の無謀な軍事侵略の根拠となった｢統帥権｣問題が、どのような形で醸成されていったのかについての記述も面白い。戦前、鳩山一郎などの政党人自らが、他党を非難する手段として政治の軍事へ対する介入を「統帥権干犯」と批判したという事実などを見ると、党利党略次第で、その主義主張を変えることの多い現在の日本の政治情勢と大して変りがないことに思い当たる。日本を開戦へと導いてしまった多くの「日本の失敗」から五十数年が経過しているが、現在の日本は過去の失敗から学んでいないことに愕然とする。

（発行98年12月）