可能性としての戦後以後加藤典洋岩波書店

社会学、文化論の類というのは、切り口が無限にあるから、それこそ、総括的に社会全般を語ろうとするいわゆるマクロものから、極めてニッチな分析により、一つの真理に到達しようという超ミクロまで様々である。本書の著者は｢日本｣と「日本人」というアイデンティティーにこだわって研究し、その幾つかの論文を集めたのが本書である。得体の知れないタイトルになっているのは頂けないが、一つ一つの論文には、ミクロ的にキラリと光る考察があって、それなりに面白かった。特に著者がこだわるのが、戦争中は先頭に立って、戦争に協力していた国民が、何故、戦後一転して、自分達を戦争の被害者と規定し、極端な平和主義者に、なんの衒いもなく変身してしまったのかという点だ。それは、天皇の戦争責任が不問に付されてしまったということによって、正に責任の中枢を失ってしまった国民の戸惑いにあることなどは、面白い指摘だ。又｢本音とタテマエ｣という考え方も、寧ろ、この戦争責任の忘却の一つのロジックとして、利用されていることなども、思い当たる節はある。

この辺のニッチな社会学というのは、やはり、趣味の世界であるなという感は拭えない。社会学という学問はその分野が広すぎること、また、深く掘り下げようとすると、どこまでも深くなっていくことなどを考えると、学問としてはともかく、一般人にとっては、とっつき難いことはたしかだ。

（発行９９年３月）