思考スピードの経営ビル・ゲイツ日本経済新聞社

現代の社会の不可欠のインフラである、高度情報産業の、創設者の一人であり、又、その最大の成功者でもあるマイクロソフトの社長、ビル・ゲイツは、今も、その情報化社会の方向性について、伝道師的役割を担っている。彼の最新書である本書において、ゲイツはインターネットを媒体として、張り巡らされるＷＷＷをいかに、活用して行くかが、これからのビジネスに勝ち残る唯一の方向であることを、具体例を挙げつつ、又、マイクロソフト社で、彼自身が経験して来たことを交えて語っている。副題に｢デジタル経営教本｣とあり、又、著者も前書きでも述べている通り、本書はＷＷＷによって提供される、情報を如何に企業が活用すべきかを、説いたハウツー物のスタイルになっているが、実はその様な、具体的事例を積み重ねて語ることによって、ＩＴ（インフォーメーション・テクノロジー）が21世紀の、人々の生活パターンを変え、或いは、労働の形態、教育の進め方、医療の在り方をも、根本的に変革する革命であることを、述べる伝導の書になっている。

即ち、ウェッブを情報発信の為のツールとしてのみ捉えるのではなく、例えばビジネスに於いては、ウェッブそのものが、ビジネスを進めるための、基本的プラットフォームになるのだというご宣託だ。

21世紀のこのようなウェブ型社会においては、このビジネスプラットフォームを如何に有効に活用出来るかが、企業にとって最重要であることは、本書が述べる迄もないことだ。ゲイツはこれに加え、その活用が「迅速」であるかどうか、即ち、活用者の「思考スピード」こそがウェッブ型社会のキーであると力説している。経済活動に従事するものならば孫子の兵法の時代から、決断のスピードこそが戦略の要であることを知っているから、ゲイツの主張を容易に理解することが出来るだろう。それでは、企業は思考スピードをどの様にしたら上げることだ出来るだろうか。ゲイツは、多くの知的労働者（knowledge worker）を育成し、彼等が迅速な判断を行えるような、知的神経系（nervous system）を構築することであると説き、その具体策を詳細に述べている。これが、現在、三菱商事などが21世紀型企業たらんとして、取組んでいるITシステム構築の基本理念とつながるものである。当社においても、総合的なビジネスインフラとしての、知的プラットフォーム作りが急務であることを実感した。新時代の経営哲学考察の為に大いに参考になる。

（発行９９年４月）