万国奇人博覧館　 G.ブクテル／J.C.カリエール　築摩書房　

世の中に奇人、変人の類は多く、それらの人々のみならず普通の人でも結構、奇行を行っているし、我々の回りにだって奇人はいる。しかし、何をもって、それを奇行というのかは、考えてみればそれ程はっきりとした基準がある訳ではない。何故なら、世の中で奇行といわれることを行っている本人は、至って大真面目で、それを奇行だなどとは全く思っていないケースが多いのだから。本書は世の中に、奇人だ奇行だといわれた、様々な人、或いはその行為を、事典形式で約400ページに亘って書き記したものだ。只、どのケースも、ご本人はいたって真面目であるところが面白い。長い項目では2ページに及ぶものから、短い項目なら数行という項目迄、あいうえお順に整理されているから、どこから読んでも、又、どこで止めても良い。座右に置いてそれこそ、一寸暇な時にページをめくるという格好で、かれこれこの一年、眺めて来たものだが、手放したくなくなる程面白い。

世界の奇人、奇行の列伝の中に、日本からは、先頃亡くなった大屋政子女史が出ているのが嬉しい。彼女の項には、「頭には所有する８８８個のピンクの帽子の一つを被って」「いつも亡夫のパンツを身につけている」などと記述されているが、これが奇行とは、故人は思っていなかっただろう。

ある本好きの貴族は、公開処刑場に向かう間も本を離さず、いよいよ自分がギロチン台に向かう順番になったときに、ページの端を折ったという。

又、「世論調査」という項には、アイオア州の新聞が行った、風変わりな世論調査の方法が述べてある。その新聞社では、ラジオを通じて有権者に、年末の大統領選挙でカーターを支持する人は15時丁度から10分間水洗トイレの水を連続して流して呉れるように依頼した。又、エドワード・ケネディー支持者は15時10分からの10分間、態度未定の人は15時20分からトイレの水を流して欲しいという放送をした。給水塔に詰めた調査者は、カーターの時間帯に水位が大きく低下したことを認め、ケネディーの時には少ししか下がらなかったことを確認したそうだ。果たして、同州の大統領予備選挙の結果はその通りだったという。これは、奇行なのか、それとも合理的な世論調査方法なのか、悩むところではある。

尚、膨大な奇人、奇行の類を丹念に収拾し、これだけの大著に仕上げた著者もやはり、奇人、奇行の類ということが出来るだろう。

（発行96年11月）