自由主義市場経済を理論的に経済の望ましい姿として今から２００年も前に提唱したアダム・スミスは、又、現在のグローバルエコノミーの理論的なバックボーンであるとも認識されている。それは、グローバリズムの反意語である国家保護や規制によって守られる、保護主義経済、あるいは大きな政府による規制擁護の提唱者であるかのように理解されているケインズの正反対の理論だからと考えられている。この、認識に対して疑義ありとするのが、本書の趣旨である。著者によれば、アダム・スミスの理論は、その当時の時代的背景から、当然国民経済、重農主義経済を先ず第一とするものであり、又、中世から近代への過渡期という意味合いからバーチュー「徳」という、貨幣価値では計れないものが価値を持っていた時代背景を考えても、グローバルエコノミーと言った単一化された、経済構造を良しとするものではなかったはずだからだという。勿論、スミスのイメージした市場という概念の中には、富すなわち貨幣というものの交換の場という意味での質的なものはあっても、グローバルという立体的な広がりという概念は無かったかも知れない。そうであれば、ケインズ批判から発達した新古典派経済学が信奉するアダム・スミスは必ずしも、新古典派が期待するほどには、グローバルエコノミー、自由主義市場経済の確固とした教祖さまというわけではないかも知れない。この様な経済思想史の研究を地道にやっている人がいるのだということを知る意味では、中々、価値のある本であり、著者は次著では、同じような観点からケインズとグローバリズムを考えることにすると、予告されていてこれも楽しみではある。只、経済思想史の研究というのは、歴史の研究だけに終わってしまってはつまらない訳で、もう少し、「だから、現在の状況はこう考えるべきだ」といった点に演繹して欲しいとは思ったが。

（発行９９年６月）