なぜ日本は没落するか森嶋通夫岩波書店

内容がくだらない本というのは数多くあるが、唯我独尊の御託ばかりで内容がくだらないだけではなく、腹が立つ本というのはそんなに多くはない。本書はその珍しい本だ。ロンドンで隠居生活でも送っているらしいこの老教授は、2050年の日本は没落しているという、さしてデーターの裏づけがある訳ではない御本人の思い込みを、現在の日本の教育の問題点やら、政治の人材不足やら、はたまた、中国や韓国に対して戦争中の行為を詫びたらない日本といった理由で、感情的に煽り立てる。話は、日本の没落論かと思えば、突然、著者の批判者に対する悲憤慷慨の悪罵になる。著者は韓国に謝れ、中国に謝れという自虐的戦争史観の持ち主だが、それに対する多くの批判者を、「転向者」であるとか「文学者のくせに」とどうにも私怨としか思えない反論で切ってすてようとする。2050年日本没落説にも反論は当然多いようだが、その反論に対する反論も、これまた、感情的に悪罵でしかない。結局、読み終わって、1600円もの金額を払って、著者の自慢話と、他人への悪口雑言を聞かされただけだと気が付いて、腹が立つという仕掛けだ。2050年に日本は、没落しているかもしれないし、していないかも知れない。何れのケースも推論なのだから、現在、入手しうる出来る限りのデーターと、推論を導き得る理論的手法を駆使して論述すべきものだ。どれほどの、業績のあった経済学者（？）なのか社会学者（？）なのか知らないが、著者は自分の直感と勝手な思い込みを先ず結論に置いて、それ以外の理論は駄目だというのだから話にならない。この著者の本は二度と買わない方が良さそうだ。

(発行99年3月.)