娘をかえせ息子をかえせ　　　　　高世　仁　　　　旬報社　　　　　　

北朝鮮による日本人の拉致が、日本政府がその疑いが濃いいと公式に認めたものでさえ横田めぐみさんをはじめ7件10人に及んでいる。本書ではそれ以外の事例を含め13件17人の北朝鮮による拉致事件を、丹念に取材し、拉致という重大犯罪が、一国の政府によって組織的に行われているという恐るべき事実と、相手が政府であるが為に、一向に解決に至らないもどかしさを、拉致者の家族達がどのような思いで感じているかを取材したものだ。そもそも、ある日忽然と姿を消してしまう、娘や息子が、実は北朝鮮により組織的に拉致されたのではないかという疑いは、多くの家族は持っていなかった。しかし大韓航空爆破事件の犯人、金賢姫の証言による、李恩恵の存在などから、徐々にその実体が明らかになり、又、北朝鮮からの亡命者などからの生々しい証言によって、横田めぐみさんの拉致の経緯などが明らかになって来た。それ以前は、マスコミなどで拉致に言及するものがあれば、朝鮮総連などが、政治的あるいは物理的な圧力をかけて報道を抹殺するのが日常茶飯事であって、拉致問題はタブー視されてきたのだ。亡命特殊工作員安明進から横田めぐみさんが新潟から拉致された経緯と今も北朝鮮に幽閉されているという証言を得るに至った歴史的インタビューを行ったのが本書の著者である。その証言をはじめとして、多くの拉致の証言は伝聞であったり、裏付けに乏しい情報であるといわれたものを、著者は丹念にその情報の裏付け取材を行い、拉致が事実であることを明らかにしている。本書の様な地道な努力により、日本人拉致という国家犯罪を行っている、得体の知れない北朝鮮の実体が浮かび上がってくる。これだけの、証拠を付きつけられても、北朝鮮は拉致をありもしないことと居直っており、又、日本政府もそれを追及する手段を持たず、食糧援助や、KEDOの援助と金をとられるばかりだ。拉致者の両親の嘆きの声は届かないままだ。

（99年4月発行）