禅とは何か鈴木大拙角川書店

鈴木大拙を哲学者と呼ぶべきか、宗教学者とよぶべきか、はたまた禅研究家とよぶべきなのか、どうも適当な言葉が見つからないが、世界に日本の禅を紹介した文化勲章の受賞者であることは良くしられている。高校生の時代に、一度この｢禅とは何か｣を読んで、殆ど理解できないものの、そこに含まれる、仏教的な哲学思考に感激した想い出がある。何十年ぶりに読み返してみたが、果たして、理解度においては、当時とどれほど進歩したのか、どうも自信がない。仏教は一般的には知的な宗教であるといわれており、又、その仏教が中国で更に、特殊な発展をしたものが禅であることから、禅そのものの論理は、極めて理知的な論理によって構成されていると考えられているが、大拙は本書の中で、仏教の三つの特長、即ち「伝統」「理知」「神秘性」が禅の神髄にはあり、従って論理を積み重ねた｢哲学｣とは違うと述べている。禅とは心理学の上に成り立っており人の神秘的体験がなければ成り立たないとの説は、これまた、何となく納得させられる。論理はその論理に頼っているからこそ、それを突き崩されたらという脆弱性を持つ為に、哲学は長い間にその論理を変えていかざるを得ない運命を持つ。しかし、禅は論理のみの上に構成されている訳ではないから、人によってその捉えかたが違ったとしても、禅自身の構成は不変であるといった指摘などは、禅問答そのものかも知れない。日本が世界に誇る知性である鈴木大拙の最も有名な著作である本書は、尚、何回も読み直してみる必要がありそうだ。

（54年10月発行）