企業年金危機河村健吉中公新書

現在の日本経済の閉塞状況の一因は、社会保障制度、特に年金制度の将来性に赤信号がともり、その事で人々が将来不安を持ち個人消費が盛り上がらなくなったことがある。しかし、ここに至るまで、年金ということに関して我々自身が一体どれほど関心を持ち、知識を持っていただろうか。企業年金に限っても、厚生年金基金と税制適格年金の違いを知らず、又、その運用がどのようになされていたか、何故、破綻に向かいつつあるのかについて、今でも把握している人は少ない。その意味では、徒に将来不安のみを肥大化させて心配しているということなのかもしれない。本書は信託銀行に於いて長年企業年金業務に携わって来た著者が、現場から見た目で、そもそも企業年金とは何か、その問題点はなにかといった解説からはじまり、ここに来て俄かに賑やかになってきた確定拠出型年金への、移行の問題点にまで亘って述べたものだ。無知であった企業年金というものについて、網羅的にしかも分かり易く解説されているので大いに参考になる。

そもそもバブルの時期に、運用利回りが上がったからと言って結果的にはそれに浮かれて年金福利施設をあちこちに建て、バブルがはじけて、年金基金が破綻しそうになったからと言って、今度は個人がリスクを取る確定拠出型年金制度を採用すべきだと言っている経団連は無責任だという著者の指摘などは、大いに耳を傾けたいところだ。

（99年7月発行）