こんな日本に誰がした谷沢永一クレスト社

副題が「戦後民主主義の代表者大江健三郎への告発状」とある。自虐的歴史観に基づく歴史教科書への批判でならしている、新民族派の評論家である著者の徹底した大江健三郎批判の書である。著者によれば、大江健三郎は反国家、反天皇、反防衛の考えを姑息な手段で吹聴している、卑怯、卑屈、醜悪な人物であると、これまた相当にどぎつい批判に終始する。確かに、大江健三郎は「防衛大生は恥辱である」「長崎、広島に原爆が落ちたのは日本が悪い」といった信じ難い発言をし、又、紅衛兵前後の中国や、北朝鮮を賛美し、それに比べて日本は酷いといった調子での批評を繰り返して来た。天皇制は民主主義に反するから、あるいは日本は反省が足りないからと文化勲章の受賞は拒否しながら、スウェーデン国王の授与するノーベル賞は受けるという矛盾した行動などから、大江健三郎の唯我独尊的な言辞には胡散臭さが漂っているのは確かだ。その意味で、よくもここまで言いも言ったりという程の、大江批判は、日頃の霧が晴れる思いがするむきも多いだろう。最も、当然のことながら、この大江批判の基準は著者の個人的な価値基準であり、特に、天皇絶対崇拝に近いと思われる著者の天皇観などには、大江健三郎とどっちもどっちという気がしないでもない。

只、先の戦争一つとっても、何でもかんでも日本が悪かったといった類のいわゆる｢戦後民主主義者｣達の自虐的歴史観の、戦後の日本に及ぼした甚大な被害を考えれば、まあこれぐらいの厳しい悪罵も必要かとは思う。いや、本書が発行されてから4年たつが、一向に大江健三郎も「戦後民主主義者」達も反省した素振りが見えないことを考えると、寧ろ続編を望んだ方が良いのかも知れない。

（95年6月発行）