経済覇権吉川元忠 PHP研究所

「YENは日本人を幸せにするか」および本年全般のベストセラーの一つとなった「マネー敗戦」の著者による新刊だが、述べられていることは前二冊と同じものだ。書き下ろしは一部で、近年著者が種々の雑誌に載せた論文を再録したものであって、新鮮なものとは言えないが、只、著者のオリジナルである日米経済の現状をドルと円のマネー戦争における日本の敗戦にありとする理論は、信憑性は疑わしいものの何回聞いても、スパイ小説でも読むようでありユニークであり面白い。世界最大の債権国の日本が未曾有の経済苦境にあり、一方、その日本を筆頭に世界から金を借りまくり、世界最大の債務国である米国が一人勝ちともいえる程の好況に沸いているのは、何故なのか。これだけ、景気が低迷して株価も低調であるにも拘わらず、何故、円はこんなに高いのか。これらを、米国政府の深謀遠慮に基づく陰謀であり、その陰謀に唯々諾々と乗って巨大な国富を失っているのが日本なのだといったストーリーは確かに小説向きといってよいだろう。著者の論理構成はそれこそ手品のようだから、この理論を如何にも確固たるものにしてしまうから、ミスターマリックの手品のように、実はタネがあっても人々は心霊術でもあるかのように信用してしまい、「目から鱗がおちた」と感じる人も多いかもしれない。それでは、このような状況から日本が脱出する為にはとして述べられているのが、「輸出円建化促進法」であったり、ユーロのアジア版である円を基軸とした「アジアン」の提唱であったりという飛躍にはちょっと首をかしげるものの、全体的な論理構成においては一応良く出来ているといえる。

（99年9月発行）