日本の大チャンスピーター・タスカ講談社　

前著「不機嫌な時代」はベストセラーになったが、著者は英国の証券会社の日本株ストラジストとしてこの10年にわたり、日本の経済構造とその背景にある「日本的」社会構造をユニークな視点で捉え続けて来た。著者の発想により流行語となった言葉も多い。そのような著者が、10年この方の経済不調に悩む日本の、その不調の原因を構造問題に溯って分析し、更にはそれを発展させて、日本人のメンタリティーの面にまでその考え方を演繹しており、中々面白い。日米経済の大逆転を可能にさせた元凶が、低金利であり、又、株式の持合い構造でありという分析は、極めて思い当たる節が強い。1200兆円の個人金融資産を持ちながらも、その資産からの収益にあずかることもできない一般の預金者の利益を掠め取っているのは、誰なのかといった発想から、結局、それらの低利の資金で、無責任な経営を続けてきた大企業とその経営者、あるいは、GDPを上回る累積赤字を積み重ねている政府といった犯人像を描きだす手法などは、前著同様に一般読者の喝采を浴びるかもしれない。日本の将来について、明確に明るい絵を描いているわけでもない結論と商売気たっぷりの表題には、多少いやらしさを感じないではないが、日本経済の復活の望みが全くないという訳でもないようだから、まあ気落ちしないでおこう。

（99年7月発行）