経済白書物語岸宣仁文芸春秋

終戦直後に極めて限られた国家財政で如何に速やかに日本経済を復興させていくかという課題を「傾斜生産方式」によって国家主導のもとに見事に果たしていった時代には、いわゆる官庁エコノミストの経済分析とその分析による指針は、それなりに意義のあるものであっただろう。しかし、それから50年もたって、経済自体が肥大し国の経済運営が実経済に与えるインパクトの比率が低下するにしたがって、官庁エコノミストは結局何をしているのか、その存在意義も薄れて来たのは致し方ないことなのかもしれない。白書の中の白書ともいわれる経済白書は、官庁エコノミストのその時々の経済分析を表すものだが、近年とみにその存在価値が薄れており、何よりもその分析が間違い続けて来たことで、むしろ有害であるとのそしりも免れ得ない。本書は平成10年までの戦後の52冊の経済白書を追い、その時々の経済情勢のレビューを通して、経済白書が何故間違え続けて来たかを追ったものだ。ほとんど全員の白書執筆者との度重なるインタビューを裏づけにしており、それぞれの執筆者の性格にまでも掘り下げたものだけに確かに十分｢物語｣と言える構成になっている。

白書は官制のものであり、基本的には経済の「レビュー」が中心になるもので、決して経済予測を主体とするものではない。それにも拘わらず、白書が間違い続けて来たということは、経済事象というものがそれ程までに、分析の難しい変数だらけのものなのか、あるいは単純に官庁エコノミストの力量不足なのかは、本書においても謎だ。

何れにせよ、経済企画庁が例年発表する経済白書によって、いささかなりとも国家の経済運営が左右され、国家の経済運営の巧拙が我々の日常生活や日本経済の将来に影響を与えるとするならば、毎年毎年、間違い続ける「経済白書」の現状をそうのん気に放置しておく訳にもいかないかもしれない。

（99年6月発行）