般若心経のこころ　　　瀬戸内寂聴、他　　　プレジデント　　　　

出版界では、「般若心経」ものを出せば、必ず当たるというジンクスがあるそうだが、276文字からなるこの般若心経にこめられた仏教の智彗は、古来、日本人の心を捉えるものがあるようだ。本書は月刊プレジデントが折々に、般若心経に関する特集を組んだ際に、各方面の人士が寄せた心経にかかわる論文を集めたもので、この276文字の経文の意味の解釈だけではなく、仏教史における心経の役割、あるいは心経の与える哲学的な意味合いといった、多方面からの取り上げ方となっている。

瀬戸内寂聴と梅原猛の対談あり、仏教者による心経の解説あり、歴史学者による、空海、あるいは聖徳太子と心経のかかわりに関する考察ありと、まとまりという点ではいささか散漫ながら、心経に関する造詣を深める意味では、中々面白い。「色即是空、空即是色」にこめられた、大乗仏教の哲学の真髄の研究は、このような形でこれからも、未だ未だ何世紀も続いて行くことだろう。

（92年7月発行）