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なぜビッグバンは起こったか アラン･H･グース 早川書房
我々が現在住んでいるこの宇宙は今から約130億年ほど前に、超高温、超密度の一点から始まったとするのが、ビッグバン宇宙論であり、この理論は20世紀における科学の進歩が到達した理論であり、様々な形でこの理論の正しさを証明する実証結果が観測されている。
しかし、このビッグバン宇宙理論も、宇宙誕生の十のマイナス35乗秒後の世界以降の宇宙の進化を説明はするが、それ以前、あるいは「何故」そのような状態が出現したかを説明していない。この疑問に理論的な解決を与えたのが、本書の著者、グースが唱えたインフレーション理論である。又、このインフレーション理論からの進展は、我々の住む宇宙は、唯一の宇宙ではない可能性を示唆することになるかもしれないし、又、我々の宇宙をも含む、永続的な宇宙の存在をも示唆するかもしれないというのが、現在、著者達が到達しえたインフレーション理論の地平である。物理学の究極の目的は「大統一理論」といわれる、全ての事象を含包することの出来る、統一理論であるが、インフレーション理論は、その橋渡しになり得る理論なのかも知れない。
本書のユニークなのは、著者の研究の成果の解説書であると同時に、身分の不安定な一理論物理学者であった彼の、個人的な生活、友人関係を気さくに記述し、そのような生活の中で、彼がどのようにして、このインフレーション理論に到達できたかを語っている点にある。物理学者が一市民であり、決して俗世から離れた仙人達ではなく、その一市民がいかに世紀の発見に到達することが出来たかの記録であるから、難解な理論に溢れた本書も、何となく親しみを持って読むことが出来る。
（99年6月発行）