われ万死に値す岩瀬達哉新潮社

副題が「ドキュメント竹下登」とあるが、小渕政権を作った黒幕ともいわれ政界において隠然たる勢力を持つ元宰相竹下登の暗部に迫るドキュメントとの触れ込みである。それだけに、ドラマチックな書き方になっているが、竹下自身がそのような暗部を暗示させる存在であるだけに迫力がある。

先ず、言語明瞭意味不明といわれたような竹下登の暗い鵺的な性格がどのようにして形成されたかを、竹下の最初の妻と舅の確執、又それに続く彼女の自殺にさかのぼって検証する。早くから天下国家を論じ政治家になることを夢見ていた竹下が、そのような試練に如何に隠忍自重し、宰相という地位にまで上り詰めたのかは、まさにドキュメントに値するかもしれない。結局、政治家、宰相になることが目的化してしまい、政治的信念が何であったのかを、彼自身が正直に吐露した機会は先ず見当たらない。

皇民党による「ホメ殺し」をやめさせる為に、稲川会という暴力団組織の力を借りたのではないかといわれる疑惑、リクルート事件の渦中で、竹下の金庫番といわれた青木秘書の自殺といった暗い疑惑がこの人にはつきまとう。島根県における公共事業を一手に仕切る竹下錬金術等々にしてみても、日本の政治の正にダーティーな面に何故か、必ずこの人が顔を出している。

ホメ殺し終結に至る、知られざる黒幕の存在などドキュメンタリーライターとしての著者の勇気には感心させられるし、そのような真実をえぐり出すことによって、人間竹下登の鵺のような存在がおぼろげながらその輪郭を浮かび上がらせることに成功している。

（99年9月発行）