中華人民共和国国分良成ちくま新書

既に千年を越える交流の歴史を持つ隣国であり、「同文同種」の文化を持っているのだから中国のことは、日本人は良く分かっているという思い込みは強い。

しかし、ふっと気がついてよくよく考えて見ると、我々日本人が持っている中国のイメージと現実の中国が余りにも違うことに思い当たる人も多い。既に天皇が訪問までして何度も何度も詫びたにも拘わらず、何で江沢民は日本に来てあれほどしつこく日本の戦争責任に言及したのか、社会主義を標榜しながらも、現実に起きている経済事象は、悪しき市場主義、資本主義そのものではないかといった戸惑いである。

そのような中国に対する違和感が、何故生ずるのかを、本書は極めて明解に分析している。中国を理解するために、知らねばならないことは多い。本音と建前、表の顔と裏の顔が、大きな矛盾もなく並立する社会、メンツあるいはプライドが中国人にとって如何に大切なものかという先ず中国人分析がなされているが、日本人の思い込みと現実の中国人との違いがこれほどあるかと驚かされる。

中華人民共和国の成り立ちから解説し、それゆえに現実の中国政府の行動様式、あるいは思考方法がこうならざるを得ないという解説を行った章、あるいは、中華人民共和国成立以来の、権力闘争とそのバックになったイデオロギの変遷を解説した第四章も実に簡潔ながら内容は濃いい。

中華人民共和国を知る上でまことに簡便な書である。

（99年9月）