罪なくして罰せず 中坊公平 朝日新聞社
住管機構の社長を務め、先ごろその発展的組織である整理回収機構の社長を勇退した著者は、一時は首相になって欲しい人のベストテンにもランクされたことがあるほど人気が高い。それは、今の世の中にこれほど、フェアーでかつ正義感に溢れた人がいるだろうかと思えるほどの清廉潔白で、しかも実行力を伴った数々の弁護活動実績から来る評価である。
本書では、その中坊さんが、彼の一連の活動がいかなる理念から生まれたものであるかを、自らの生い立ち、父から受けた教え、弁護士として現場から学んだことなどをまじえて書き著したものである。
弁護士として歩んできた半生を省みて、中坊さんは日本の司法がその機能を十分に果たしていないことを嘆き、それであれば、司法はいかにあるべきかを具体的に提言している。
先ず、紛争を司法の場で解決しようと人々が思うような体制造りをしなければならない。｢泣き寝入り｣｢暴力｣「行政指導」といった曖昧な形で揉め事が処理されてしまう「二割司法」の現実にこそ問題がある。もっと裁判が人々の身近なものであるべきであり、｢法廷に一輪の花を｣という中坊さんの主張は実に分かり易い。
日本社会の矛盾に対する中坊さんの指摘は、司法に限られてはいない。日本の官僚制度、ジャーナリズムなどを含めた社会制度そのものの矛盾点を、自らの経験に基づいて鋭く指摘し、あるべき姿を提言している。
森永ひ素ミルク事件の被害者、豊島の産廃問題における住民、あるいは住専問題で野放図な融資に走った銀行やバブルに踊った企業などの尻拭いをさせられる国民といった「罪なくして罰せられる」人々が次々に生まれることこそ、日本社会の矛盾の投影であり、その人々を救うことが、中坊さんの今までの活動であったことが良く分かる。
一線を退かれ、奥さんとゆっくりとした老後を過ごしたいという中坊さんの引き際もまた、中坊ファンが益々増える原因になるだろう。
（99年8月発行）