金融行政の敗因西村吉正文芸春秋

日本の戦後の高度経済成長を支えた護送船団方式といわれる金融行政は、その経済がピークをむかえ、バブル崩壊から10年不況といわれる低迷に向かった時期には、一転して、その崩壊の元凶であるとの非難の十字砲火を受けるにいたった。

その、護送船団方式最後の時期に大蔵省銀行局長であった著者が、当時を振り返り何故、金融行政は多くの失敗を重ねてしまったのかを率直に分析したものが本書である。住専問題処理の為の公的資金投入の際には、正に世の批判の的であり、悪の総本山であるかのような扱いもされた著者であるが、本書に於いては、意外な感じもするのだが、言い訳がましいところはほとんど無く、率直な反省の回顧が続く。

考えてみれば、大蔵省が、あるいは一銀行局長が如何に必死に押しとどめようとしても、バブル崩壊とその後に続く、金融自由化の波、経済のグローバル化の中では、護送船団方式を日本一国が維持することは、所詮無理だったのだ。その、無理をなんとなく出来るかの錯覚をしていたのは、大蔵省、あるいは一銀行局長のみの責任ではない。ある意味では、日本全体が間違っていたのであって、その代表的な位置にあったのが、著者だったということであろう。

著者は、金融行政への彼のかかわりは、太平洋戦争の敗戦への道の第一歩であったミッドウエー海戦の途中から加わったようなものと、言っているが、正に偽らざる気持ちなのだろう。

金融行政の責任者として、敗戦の責任をどのような形で取るかについては、著者の場合、本書のような形で、率直にその敗因分析をすることで果たそうとしているとのではないだろうか。その意味で、官僚OBには珍しい潔さを持った人だと思う。

但し、責任は全て自分が被るという論調で、当時の政府、あるいは大蔵省、日銀などへの非難追及がないのは、潔すぎて、拍子抜けの感もあるが。

（99年10月発行）