害虫殲滅工場　　　　小林照幸　　　　　中央公論社　　　　　　　　

沖縄の郷土料理の代表であるゴーヤチャンプルのゴーヤとはニガウリのことである。今、スーパーなどでも沖縄産のゴーヤを見かけるようになり、この沖縄料理を全国で楽しむことができる。

しかし、このゴーヤにはウリミバエという害虫が卵を産みつけることもあって、長いあいだ、検疫上の規制があり、奄美、沖縄からの移入は禁じられて来た。

これが今は自由に本土に入るようになったのは、ウリミバエが絶滅されたからなのだが、この絶滅作戦の経緯を克明にルポしたのが本書である。

ウリミバエと同じく、これらの地区で害虫としての猛威をふるっていたミカンコミバエも同様な方法で絶滅されている。

その方法とは、コバルト60を照射して不妊化したこれらの害虫を大量に散布するのだ。自然界の害虫がこれらの不妊化した虫と交配すれば当然、卵は生まれない。この不妊虫の大量散布を繰り返すことで、遂にはこれらの害虫が絶滅に至るというものだ。

もともとは、アメリカで開発されたこの手法を、日本では昭和30年代後半から、取り入れ、改良に改良を重ねることによって、遂には、アメリカでも為し得なかった程の広範な地域に存在するこれらの害虫を絶滅させるという、出藍の誉れの実績を得るに至ったのは、日本があらゆる海外の技術を取り入れ、それを改良してさらに発展させる技術に優れている一例とも言えるだろう。

この害虫絶滅作戦に加わった人々には、それぞれのドラマがあり、又、このような作戦を展開させるためには、官庁の思惑や、組織の軋轢などの、様々な苦難の道があった。

その意味で、作者のルポの取材選びの着眼点の良さには感心させられる。

但し、事実を淡々と調査して記述する態度には好感がもてるものの、もう少し、ドラマ性を持たせる書き方があったのではないかとも思われるが。

（99年10月発行）