日本10年後への戦略　　　　石黒憲彦　　　　日本経済新聞社　　　

日本がもうアメリカから学ぶものは何もないとまで傲岸不遜になっていた今から10年前、そのアメリカはパックスアメリカーナの終焉を迎えた滅び行く老大国のようであった。しかし、実はその間に米国は日本の繁栄から多くのものを学び取り、それを換骨奪胎したネオアメリカモデルを着々と築いていた。その、ネオアメリカモデルは厳しい構造改革の試練の中で育ち、高度情報化をその糧として一気に花開いた。一方、日本は過去の成功体験に囚われの身となり、大胆な改革も出来ないままに、衰亡の途を辿るに至った。その退廃は、社会システム、経済のみに限られたものではなく、教育という国家の根源にさえ、修復不能と思われるほどの疲弊をもたらしている。

通産省の官僚であり、米国での駐在経験を持つ著者が、俯瞰した過去１０年の日米の興隆衰退のクロノグラフィーは明快であり恐らくその批評も正しいだろう。

著者はこの様な過去１０年から次の１０年に日米の再逆転の方策を提言する。それはすなわち、アメリカが過去１０年に行ったことと同じく、現在のアメリカの成功から学び、しかし、それを単に模倣するのではない、ネオ日本モデルの再構築である。そのための国家戦略、企業戦略がいかにあるべきかという問題に留まらず、個人と個人の連携はいかにあるべきかという、これからの日本社会のあり方の根本の部分での変革であるという。

「成功の囚人」から脱却してこそ日本の復活「日は再び昇る」が実現する可能性が出て来るという。元気の出て来る話しではないか。

しかし、政治、経済の構造改革の進捗の遅いことを思うと、著者の言う日本再生の可能性が果たして、それほど高いものとは思えなくなってしまうのが実情ではあるが。

（９９年１１月発行）