ダライラマの微笑牧野聖修ほか蝸牛社

世界各地で少数民族の独立運動が盛んで、民族自決という古い価値観が再び正義といわれるようになって来たのは、世界一体化だとか、グローバル化が叫ばれている中では、何とも奇妙な現象にも見える。

コソボ問題では、世界中がユーゴスラビアからの独立を主張するコソボこそ正義であり、かつてのチトーが標榜した民族融和をとなえる旧ユーゴスラビアが悪であるという図式の下に、「人権を守れ、コソボを救え」とばかり、NATOは大挙してユーゴを攻撃した。

それであるならば、アジアにおける最も古くて、大規模な弾圧が加えられているチベットの民族自決の要求に対しては国際世論は、どのような態度をとっているだろうか。チベット民族の自決を抑圧する中国に対して、世界はほとんど沈黙しているといってよい。

大国、中国のチベット弾圧問題は、国際政治の中で翻弄され続け、沈黙どころか無視されていると言って良いだろう。

本書は、民主党の議員である著者が、チベットを訪問した自らの経験を含め、チベット人の心のよりどころとなっているダライラマの言動などを含め、簡潔にチベット問題の現状を解説したものである。

中国は、49年以来、チベットを自国の領土であると主張し、自治や、信教の自由を求める多くの人びとを弾圧し続けている。漢民族の大量移住を推し進め、チベット人をインド国境に追いつめた結果、既に、この地区におけるチベット人は少数民族に転落しているという。

ダライラマの訪日問題、カルマパのチベット脱出と、最近再びチベット問題もやや脚光を浴びつつもあり、この問題をおさらいする意味で一読の価値はありそうだ。

国際政治における少数民族の悲劇といってしまえばそれまでだが、我々日本人も、もう少しこのチベット問題に関心をもって良いののではないだろうか。

（98年6月発行）