竜馬がゆく（全８巻）司馬遼太郎文芸春秋

「坂の上の雲」とともに司馬遼太郎の代表作といって良い「竜馬がゆく」は産経新聞に昭和３７年から４１年の間に１３３５回に亘って連載されたものだ。日本近代史における最大の出来事である明治維新においては、坂本竜馬の存在は実に大きい。

勝海舟は「薩長連合、大政奉還、あれぁ、ぜんぶ竜馬一人がやったことさ」と語ったとさえ伝えられる。

土佐の下級武士の次男に生まれた竜馬は、幼いときは「よばぁたれ（寝小便たれ）」といわれる程にひ弱であったというが、長じるとともに変身をとげ、北辰一刀流の免許皆伝の剣術家となる。折からのペリーの黒船来航以来、３００年間続いた幕府政治体制は崩壊へと向かい、勤王佐幕の戦いから明治維新へと世の中が大きく変化していく中で、竜馬は従来の藩を中心とした封建武家政治のからを抜け出し、「日本」という国家を作る理想を抱くようになる。

清国をその毒牙にかけた欧米列強が日本を植民地化しようとさまざまな策謀を巡らせる中で、自藩の利害にばかり目をとらわれる藩が割拠する中で、竜馬だけが目を広く世界に向け、「日本」という国の独立を守ることに腐心した。

又、日本における最初の株式会社組織といえる「海援隊」を組織し、貿易を通して富国を図るという先見性にも優れていた。

あまたいる幕末の志士の中でも、竜馬の卓見は極めて優れていたことは、勝海舟も述べている通りである。

この極めて魅力的な傑出した人物を司馬遼太郎は、面白い物語に仕上げた。史実に作家としての創作を交え、竜馬を取り巻く多くの幕末の英雄達、あるいは竜馬の愛した女たちの物語は、間違いなく彼の代表作といえるだろう。

「坂の上の雲」にくらべて、物語性が強く、時代背景も波瀾万丈の幕末ということもあって文庫本８巻という長編ではあるが、数日にして一気に読了できたし、読後感も爽やかであった。

（９８年１０月新装版発行）