日本経済の油断　　　　　嶋中雄二　　　　東洋経済　　　　　

様々な経済理論があるが、最近脚光をあびている複雑系による経済理論を除けば、ほぼ全ての経済理論は経済循環論に帰結するといえるだろうか。ゴンドラチェフの波から、マルクスもハイエクも、ケインズも、結局、景気は循環するという前提に立っている。一見、その説が正しいとも思えるような事象の繰り返しも幾つか、あるから、この経済循環理論は、まことしやかに信奉されるに至っているが、さあ、本当に正しいかの証明は、全くなされていない。

ある意味では、経済学者は、「経済は循環する」という「信仰」のために、無理矢理、大恐慌と平成不況を重ね合わせようとする、こじつけに汲々としているといっても良いだろう。

本書の著者も、その景気循環論信仰者の一人である。「89年大不況」という大ハズレの予測で、大分信用を落としたかと思ったが、どうにも、めげてはいないようで、相変わらずこの10年、景気循環理論による、超弱気を言いつづけている。

確かに、好景気は何時までも続かずいつかは、景気下降に向かうし、景気の低迷も永遠には続かず、何時かは上向くのは、何も経済理論を振りかざさずとも自明のことであり、そうであるならば、強気なり弱気なりの一辺倒の筋立てを言い続ければ、何時かは当たるのは当たり前で、「何時かはあなたは死ぬでしょう」という手相見の言葉は、絶対に当たるのとおなじことだ。

本書は景気循環論から見て、今、日本は何をなすべきかという視点でかかれているが、景気循環論という信仰を下に下された診断は、易学の本を見て下されたおみくじの文句のようで、現状分析には多少の役にはたっても、予測に仕える理論とはとても思えない。

そろそろ、著者もワンパターンの「警告論」、「弱気論」から足を洗ってはどうだろうか。

（00年5月）