「社会調査」のウソ 谷岡一郎 文春新書
どんな凶悪事件であろうが、被害者の遺族が泣き叫ぼうが、アムネスティーは死刑絶対反対をとなえる団体であることは誰もが知っている。この団体が衆議院議員総選挙立候補予定者に「死刑廃止に賛成か反対か」というアンケートを行った。死刑廃止論をとなえる共産党の候補は全員、「死刑廃止賛成」の回答を寄せる。しかし、死刑は存続すべきと考えている立候補者は、このアムネスティーのアンケートには回答をよせないだろう。こうして、「大半の候補者が死刑廃止をうったえている」というアムネスティの思ったとおりの「社会調査」結果ができあがり、それを、中身を吟味しないマスコミが大々的にとりあげて、「死刑廃止」という世論操作が行われてしまう。このような形で、著者が「ゴミ」と喝破する無意味な「社会調査」が横行する。
これが、社会調査をする側の無知によるものなら未だ救いはあるが、権威あると思われている大新聞、論説誌、そして大学などの研究機関が意図的にある結果を得ようとして、「社会調査」そのものを操作するという犯罪的行為が行われている。
本書は、そのような実例を豊富に取り上げ、無知と悪意による社会調査のウソ、また、それらに易々と騙されてしまう読者の側の問題を、歯に衣着せぬ勢いで切りまくる。
批判される側は、実名も多く、仮名であっても容易に類推がつく名前ばかりだ。それは、著者がこれらの、犯罪的社会調査のウソの告発に当って、その批判の根拠を明らかにするとともに、再反論は受けて立つと堂々と宣戦布告している自信の程から来ている。
本書で批判された側の再反論を是非聞きたいと思うが、まだそのような反論があったという記事にお目にかかれないのは、恐らく本書に述べられた著者の主張は全面的に正しいということなのだろう。
（00年6月発行）