二十一世紀の資本主義論 岩井克人 筑摩書房
貨幣とは一体何なのだろうか。それは昔々は貝殻であったり、木の実であったりしたかもしれない。或いは金属であり、単なる紙切れにしか過ぎない紙幣であるかもしれないし、近年に至ってはエレクトリックマネーという姿も形もないものであるかもしれない。物としてのそれ自身にはほとんど価値がないにも拘わらず交換の手段として、あるいは無形のものの価値を表す手段としての貨幣の存在というものは、研究の対象としては実に面白いものだ。
現在、日本における貨幣論では第一人者と言って良い著者が、お得意の貨幣論を話題の中心に於いて、この10数年発表してきた論文やエッセーを再録したのが本書である。
その意味では表題がこの本全体の意味を表している訳ではないし、いささか羊頭狗肉の感はあるものの、一貫して流れる「貨幣論」の周辺の論議は中々興味を引く。
さて、「貨幣とは何か」についての著者の一貫して流れる回答は、それはその貨幣を何れ誰かが、自分と同様な価値を認めてくれるだろうという「無限の連鎖に対する期待」そのものなのだという。すなわち、21世紀の資本主義の根本に流れる「予想の無限の連鎖」すなわち「投機」にほかならないとするものだ。
確かに、今、自分が持っている千円は、何時か誰かが千円の価値を認めて千円の価値のある物と交換で受け取ってくれるという予測があるからこそ千円の価値を持っているのだし、また、この千円を受け取る人もまた、同じような予測を持つからこそ受け取るのだが、これを著者は「無限の連鎖に対する期待」と呼んでいる。
その他、金、貨幣、価値、にまつわる著者の博識に基づくエッセーなどがおさめられているが、数ページの短編小説を読むために全集を買わされたような失望感は、本のお値段も安くないだけに致し方ないところだろう。
（00年3月発行）