中国 人口超大国のゆくえ 若林敬子 岩波新書
爆発的に増加を続ける世界人口は、２１世紀の半ばには１００億に達し、このまま伸び続けるならば、２１５０年には１１５億４０００万に達すると国連は予測している。
この数字でさえ人口増加に関する寧ろ低めの予測である事が冒頭、ショッキングに述べられている。人口の急増は、地球環境、食糧問題、貧困化と言う世界人類の将来にとって最悪のシナリオの元凶であることは、科学的にも語られ続けているが、それを回避する手だてを全人類的な問題として考えているのかとなると実にお寒い状況にある。
カソリック勢力の宗教的な反発により、失敗に終わった世界人口会議の例を見る迄も無く、人口抑制は一朝一夕の問題では無いことは知られる所ではある。
本書は、その難問に国家的事業として挑戦し既に２０年弱の実績を持つ、中国の「一人っ子政策」を中心に、人口政策の現状、問題点等を詳しく紹介している。
生物の一種族としての人類が、自然の摂理に基づかないかたちで、人口抑制をすると事には弊害もある。
先のカソリック教会の狂信的な人口抑制反対論にも見られるとおり、社会は人口抑制が必要であるというコンセンサスには達しているとは言い難い。むしろ人口問題に対し、無関心、無知、あるいは盲目的反対が強いのが実情であり、それを慮ってか、著者も人口の抑制が人類にとっては喫緊の課題であるとの主張は十分にしておらず、遠慮なりためらいがあるようだ。
本書にも引用されているが鄧小平が、共産党一党支配を批判する米国などに対し、中国の共産党支配がもし崩れれば、中国は混乱し各国に難民が怒濤の如く流出するがそれでも良いのかと恫喝したが、中国の人工重圧は日本には５０００万の中国難民流入の可能性として恐怖感を持って迫っている。
日本の利己的な利益を考えるならば、中国には、共産党の様な絶対政権が統治してもらうのが良いのかなとさえ考えさせられてしまう。
９４年に発行された本書であるが、中国の人口問題が日本に迫る恐怖には、現在といえども大きな変りはない。
（９４年６月発行）