iモード事件 松永真理 角川書店
最近の日本のビジネス業界における大成功物語と言えば、NTTドコモのiモードといってよいだろう。今年10月には、その加入者は1200万を突破したというのだから日本人の10人に1人が持っていることになる。
マイクロソフトのビルゲイツでさえ、21世紀のネットへの入り口はPCからパーム型のケイタイへと移るだろうと考えているというが、本当に21世紀がケイタイの時代になるとすれば、著者はiモードの開発者というより、21世紀IT革命の旗手と言われるようになるかもしれない。
iモードが発売からわずか3年でのこの驚異的な成功を収めるに至った理由は様々いわれてはいるが、iモード生みの親とも言われる著者達の開発グループが、今までの日本的な商品開発の発想、あるいは、近代的マーケット理論とは全く異なった形で、「面白いものを作ろう」「自分が楽しいと思うものを作ろう」というユニークな開発の発想を持っていたことではないだろうか。
著者がリクルートの求人情報誌の編集からトラバーユして、iモードの開発に携わりその成功を見てドコモを辞めた今年の3月迄、たったの3年余りの出来事である。著者はこの3年間を著者自身の「iモード事件」と名づけ回顧したのが本書である。
HTML言語も書けない、ITには素人と言ってよい彼女が何故、この世紀の革命の旗手ともいえる成果を上げることが出来たのか。彼女自身が「七人の侍」と名づけた開発チームの一人一人のユニークなキャラクター、自由な発想、チームにおけるリーダーシップと従来型組織にはない横型組織とあげて行くことが出来るだろう。
何よりも、このプロジェクトに加わった人々が、仕事を面白がってやっている様子が実に良く描かれていて、ぐいぐいと読まされる。
著者はアジア最強の女性経営者にも選ばれたというが、肩を張らない謙虚さや、子供の様な好奇心に溢れており、親しみを感じさせるところが又何とも感心させられる。
ビジネス成功談ではあるが、自慢気があるわけではなく嫌味もなく、ただわくわくとする冒険談を読むようで面白かった。
（00年7月発行）