中坊公平・私の事件簿 中坊公平 集英社新書
「平成の鬼平」の異名でも語られる中坊さんは、正に正義派弁護士として大活躍された。
昨年、整理回収機構の社長を辞して、自らの40年以上に亘る弁護士生活の中で取り扱った500件の事件の中から、14件を選んで、自らの弁護士としての信条がどのように形作られるに至ったかを語ったのが本書である。
「森永ヒ素ミルク事件」「豊島産廃問題」「豊田商事事件」そして最近の「住専問題」などの事件を通じる中坊さんの信念は、「罪無くして罰せられる」弱者を救うということである。
赤ん坊ゆえに何の抵抗も示せない弱者への毒物混入、県知事という「お父さん」を信頼したために、産廃のごみの山に埋もれた豊島の住民、「欲ボケで自業自得」という世間の目にさらされた高齢の被害者、そして住専の乱脈による損失を負担させられる国民といった正に「罪無くして罰せられる」人々の側にたった中坊さんの活動は、単なる弁護記録を超えて、感動的ですらある。
公害の被害者が、直接的な原因によって苦しめられた後、更に、救済もなされぬままに国や加害者の側に「見捨てられる」という現実に対しても、中坊さんの怒りは向けられている。
北朝鮮の拉致者などの例も、救いの手を差し伸べようと積極的に動かない政府によって「見捨てられている」ことを、本書を読んで改めて思った。
一時、中坊首相待望論というのもあったが、ご本人は一笑に付するものの、今の政界の混迷を考えれば、実現していたらなと真剣に思う。
（00年11月発行）